教育研究所ARCS

エリート教育 2.0

教育・子育て

ちょうど今、管野先生の記事で「学校システム」について書かれていますね。わたしもちょっとそれに便乗して、教育システムのお話をしてみたいと思います。

エリートってなに?

エリートという言葉、日本ではあまりいい響きはありませんね。特権階級というかなんというか、微妙に「身分」的な匂いがします。どうも現代の日本では固定化された身分や立場を肯定する言説は嫌われやすいようです。世襲議員の問題なども、なんとなく「世襲は悪である」と前提をおいた上で話されることが多いことからもそれが分かります。これはこれでとてもおもしろい問題ですが、とりあえずはエリートに話を戻しましょう。

エリートという言葉を辞書で引いてみるとフランス語のelire という動詞にたどり着きます。これは英語のelectと同じ意味、つまり、「選挙する、選ぶ」を意味する単語です。その名詞形としてあるeliteは「選ばれた人、選良」を意味しています。つまり、エリートは、たくさんの人々の中からある一定の基準に従って選ばれた人々であるわけです。

ここで確認しておきたいのは、この「一定の基準」がなんなのか、ということです。時代をさかのぼれば、この基準に「血統」を持ってきた場合がありました。よい血筋であるがゆえに指導者に選ばれた人々は「貴族」として政治を担当しました。また、「お金を持っている」ことを基準にすることもできますし、「道徳的である」ことを基準に据えてもよいでしょう。そして、とりあえず私たちの生きる現代の日本では、この基準は「学力」ということになっています。では、この基準は妥当でしょうか? そう考えてみると、なかなか難しい問題にぶつかります。そもそも「学力」が何を意味するかが明確ではありません。物事を記憶する能力なのか、計算を素早く正確に行う能力なのか、それともその総体なのか。明確ではないがゆえに、現代では「出身大学」の名前や成績を仮の基準にしている現状なのです。

「学校はエリートを育てるところ”ではなかった”」

日本の学校制度のモデルとなった欧米圏に関する限り、本当の意味で学校がエリート育成を担うようになったのはごく最近のことです。それ以前は、「血筋」という基準で選ばれた「エリート」が厳然と存在し、彼らは個別に雇われた家庭教師から一対一で教育を受けます。貴族エリートの時代の大学は、貴族エリートに使われる専門家を養成するものか、学者を養成するものかだったと言ってよいでしょう。しかし、フランス革命が全てを変えていきます。「血筋」による選別自体を否定したフランス革命後、国家は王のものから国民のものになり、誰しもがある国家の「国民」であるという意識を持つようになっていきます。そして、新たに生まれた「科学」の手法で国を富ませ、国の威信を上げることを国民みなが望むようになります。科学技術の発展には、当たり前のことですが「高度な専門家」が必要です。この技術者は、貴族エリートの時代の「専門家」と似ていますが、より幅広い分野に精通し、より高度な意思決定に関わる必要があります。ただ命令されて技術を使う立場から、自分の専門知識を「どう使うべきか」までを考えられる人材です。そして近代の急激な科学技術の発展とその威力ゆえに、気がつけばこの「高度な専門家」こそが「エリート」になったのです。現在でもフランスでは「グランゼコール」と呼ばれる高等専門学校が学歴のトップを占めます。いわゆる普通の「大学」よりも「グランゼコール」の方が上位に来るのですが、これは、貴族エリート時代の二番手養成機関だった「大学」よりも、フランス革命以降の「高度な専門家」の方が価値を持つに至った時代の流れゆえでしょう。

それでいいのか? エリート教育

では、エリートとは「高度な専門家」のことであると言ってもよいのでしょうか。それでYesといって済むのであれば話は終わりです。これまでのように大学の合格実績を高めることがイコール将来のエリートを育成していることになりますから。しかし、なんとなくしっくりこないところがありませんか? 高校の学校紹介を見てみると、「合格実績がすべて!」と明言するところはほとんどありません。新世代のエリートを育てる、といった文句の後に必ず、精神的な(倫理的な)成長を促すカリキュラム教養的な授業カリキュラムが付け加えられています。ということは、少なくとも高校側は、エリートの基準に専門知識・学力以上のものを求めていることになります。でも、専門知識や学力以上のものを、これまでの学校教育システムで養成することは可能なのでしょうか?上述したような「新たなカリキュラム」が上手く機能している学校は、実はあまり多くはありません。倫理や教養は学校教育の根幹である「1対他の知識伝達」や「公平な数値評価」になじまないものだからです。昔の貴族エリート時代には家庭教師が一対一で伝授してきた、これらのマス教育になじまない力を、今、マス教育の中で実現できるのでしょうか?考えれば考えるほど、エリート教育って面倒くさいものですね。

次回はこれからの、あり得べきエリート教育の姿について少し考えてみたいと思います。

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