少し前のことですが、若い人たちが集まる会合に出席したことがあります。私以外は全員20代の青年たちで、男女がだいたい半々くらいの20人くらいのグループ。
私はちょっとしたゲストというかオブザーバー的な形での参加。
皆しっかりとして賢そうな面々です。
やがて会合は無事終了し、場所を移しての飲み会になりました。
会場は若者らしく華やかな雰囲気が広がっていて「やっぱり若い人たちはいいなぁ」と、私は少しまぶしく感じていました。
で、私はたまたま隣に座る青年(男)と会話したのですが、なかなかしっかりとした受け答え。体格も良く日本人ばなれの濃い顔のイケメンでした。
「モテそうだな…」というのが私の第一印象。
ところがそのうち私の印象は微妙に変化したのです。
家族のことに話が及んだとき、彼はしきりと「ウチのお母さんが」という言葉を吐き、母親がいかに良い人で、スゴい人であるか自慢し始めたからです。
はじめは私も「そっか…。よいお母さんだね」などと相槌を打っていましたが、それが災いした(?)のか彼の「お母さん自慢」はさらに加速し始め、向かい側にいる女性陣に向かっても「お母さんはスゴい人なんだよ」などと言い出す始末。
ヤバい!
それでもさすが女性陣。如才ない。皆「へーっそうなんですかぁ」などと品の良い笑顔で相槌。
「そろそろやめとけよ!」と私は内心忠告のサインを送り続けるのですが、彼はますます上機嫌で「お母さんが」を連発しています。
彼の嬉しそうな表情にはテレとか恥じらいのようなものはありませんでした。
ふと見ると、女性陣たちから笑顔が消えビミョーな空気が流れています。明らかに、とまどい鼻白む雰囲気。
そりゃそうだよな。
この体格の良いイケメン青年。どうも正真正銘のマザコン男子だったようです!
最近増えているマザコン男子、その理由とは
最近このようなマザコン男子が増えている気がします。
その理由は後で述べるとして、その前に確認しておきたいのは「男は元来マザコンになりやすい傾向がある」ということです。
以前の記事(母の愛は海よりも深いが故に)でも触れましたが、まず子どもにとって母親の存在は絶対的であるということ。特に男にとって母は、自分を包みこみ全てを受け入れてくれるという意味で、慈愛に満ちた神聖な存在なのです。
私はその象徴として戦場で死んでいく兵士たちが皆「お母さーん」と叫ぶエピソードを紹介しました。(母の愛は海よりも深いが故に)
ちなみにこれは日本だけの現象ではないようです。
以前見たアメリカ映画(※)でも似た場面がありました。
敵に撃たれ重傷を負った兵士が、仲間の必死の介抱もむなしく命を落とすシーン。
そこまで何とか会話していたその負傷兵は、やがて眼もうつろになり弱弱しく「ママ、ママ」とつぶやき絶命する。
だから死に際して男が母を呼ぶのは万国共通といえます。
戦場に限らず、人は危険な状況では思わず母を呼んでしまうのかも知れませんね。
同僚の池村氏も初めてジェットコースターに乗ったとき、まさに頂上に差しかかって落下するという瞬間思わず「お母さーん」と叫んだ(笑)と言います。
まっ、池村氏の場合はマザコンというより単なる甘えん坊でしょうが(笑)。
話を戻します。
男が元来マザコンになりやすいというのは、このように母子関係そのものから生じる構造的問題であり、ベースに母親を神聖な者として慕う気持ちがあるのです。
それでも世の多くの男性は、この「構造的マザコン」から必死の脱出を図ります。
それが思春期です。
思春期の男の子は、それまで心地良かった母親の愛情と庇護の下から離れて自立しようと試みます。
わざと母親に乱暴な口を聞いたり、母親と外出することを避けようとします。
「うるせえ、ババァ!」などというセリフも出てくるでしょう。家では「お母さん」と呼んでいても、友人などといるときは「ウチのオフクロがさぁ…」などと言います。母親の言うことをバカにしたり、軽んじるような態度もとりますが全ては子どもなりの「自立へ向けての脱出劇」なのです。
この時期お互いの愛着度が強いほど、母親からの脱出劇は過激な形になることがあります。一時期世間を騒がせた家庭内暴力などがその典型かも知れません。
そこまでいかなくても、息子が母親に悪態を吐いたり部屋の壁やドアを蹴って反抗することは珍しくありません。
これは要するに、母親の「愛の引力」から脱出するためにはそれなりのエネルギーが必要で、その原動力としての悪態であり暴力であり反抗なのですが、引力が強ければ強いほど当然脱け出すための推進力も大きくならざるを得ないわけです。
だから、この時期のお母さんたちは息子の反抗の裏にこのような事情があることも理解し「私から逃げようとしてるのね。自立したいのね。」と温かく見守ってください。
「こんな乱暴な口をきくなんて、ウチの子オカシクなったんじゃないかしら」「不良になったのか!」などと心配する必要はないのです。
マザコン男子をつくる“母親の過度な愛情”
このように多くの男の子は、何とか母親の「愛の呪縛」から逃れて自立した大人への道を歩むわけです。
それでも奥底には母への敬愛は残りますが、それは健全な親思いの心情へと昇華していくので、次に述べるような「重度のマザコン」にはならないでしょう。
重度のマザコン男子とは、ここまでの話でお分かりのように、母親からの脱出劇に失敗したあるいはそもそも脱出しようとしなかった男性のことです。
これにはやはり母親の姿勢が大きいと思います。
かつて私はブログ(今の時代男の子には生きづらい?)でこんなことを書きました。
『最近の男の子を見ていると母親の影響によって“作られた男”が増えている…』
そして『自分の理想を息子に投影している』と。
そうなのです。今の母親たちは少子化の影響もあるのか、昔に比べ良くも悪くも息子を大事にし、可愛がる傾向がある。
大事にし可愛がるとはすなわち、自分の理想像を投影し「自分好みの男性」に育て上げるということです。
理想を投影することそれ自体が悪いとは思いません。
ただ、問題は母親が夫に失望していたり色々な困難を抱えていて希望をもてず、心に空洞がありそれを埋めるために気持ちが過度に息子に集中してしまうときなどです。
母親の行き場のない愛情エネルギーを息子が一身に浴びてしまう。
息子は母親の、やや「不健康な愛情」にからめとられ脱出できなくなります。
あと、母親が支配的なタイプであったり逆に無関心過ぎる場合も同様です。
特に母親が支配的なタイプは要注意です。
このタイプの中には、一見子どもの意思を尊重するかのように振る舞いながら、その実巧みに自分の意図する方向へ誘導する人がいるからです。
あからさまな支配なら息子も反抗することができますが、この手のダブルバインド(二重基準)の前に子どもは抵抗する術を知りません。
全く私の個人的見解ですが、このタイプのお母さんは高学歴でプライドが高く、それでいて夫婦仲が冷えている。そんなケースが多い気がします。
また、無関心タイプのお母さんも同様に息子がマザコンになることがあります。
恐らく息子は、母親の愛情を求め過ぎる結果そうなるのかも知れません。
マザコン男子、3つの問題
一方、このようなマザコン男子が成長するとどんな問題があるのでしょう?
- 第1に自立心に乏しい。
- 第2に考え方が型にはまり自由な発想がしにくい。
- 第3に魅力的でない。
この3点ではないでしょうか。
重度のマザコン男性はやはり、依存的で自立心に乏しいと思います。自分の判断力や行動に自信を持てないのです。
さらに、考え方が良く言えば常識的、悪く言えば型通りで柔軟性に欠ける傾向があります。
実はこれ、お母さんの影響大なるところだと感じます。
というのも、お母さん方と話していていつも思うのですが、息子が“普通の道”から外れることをとても嫌います。
そしてお母さん方が好む男性像は「優しい」「思いやりがある」「礼儀正しくさわやか」などですが、つまりその反対の「荒々しい」「乱暴」「粗雑」はダメということです。
えっ、それの何が悪いの?と思うかも知れませんが、あまりに表面的な「良い子」像にこだわっている点が気がかりなのです。
「優しくて思いやりのある男」は結構ですが、しかしそれは勇気や正義感、公平などの裏付けがあってはじめて意味ある資質ではないでしょうか。
また、信念のためには闘うことさえ辞さない気構えと覚悟も必要です。
そしてこれらの資質は、誤解を恐れずに言えばきわめて男性的な要素ですが、男の子は思春期頃に時にヤンチャしたりムチャな行為を通じて身につけていくものです。(今の時代男の子には生きづらい?)
優しさなどの特質は、勇気や公正とセットなのです。コインの裏と表のようなものです。どちらかが欠けてもいけない。
そうでなければ「優しさ」は「弱さ」の裏返しでしかなくなる。真に強い者こそが優しくできるのだということです。
要するに表面的な良い子像を息子に押しつける結果、物事に疑問も持たず保守的で型にはまった大人になりやすいということです。
つまり魅力のない男性ができあがる。
今の時代、母親が息子を大切にし可愛がる光景が多くなりました。
それはとても良いことだと思います。
ただ、男の子は基本的にマザコンになりやすい傾向を元々持っていて、母親へ愛着しやすい。
ですからお母さん方は、そのことを少し知って息子との距離をうまくとって欲しいのです。
何度も言うようですが、母親の影響力は絶大なのです。母親自身がその「力」を自覚することから始めましょう。
最後にひとこと。
息子を本当に「イイ男」にしたいなら、親好みの男にするのではなく「ヤンチャな部分」こそ伸ばしてあげてください。あるいは、その部分に目をつぶり少しだけ自由に遊ばせてはどうでしょうか。
※ハリウッド映画「プライベートライアン」 スティーヴン・スピルバーグ監督
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