進学校を斬る。最終回は「家庭学習」に焦点を当ててみましょう。実は、大学入試を戦っていく上で、家庭学習は非常に重要なファクターです。神業的にエレガントな授業を受け、完璧な志望校選定の指導を受けたとしても、この「家庭学習」がうまくなされていなければすべてが台無しになってしまいます。はっきり言って「受かりません」。
変化しつつある家庭学習
では、この「家庭学習」をどのように進めればよいのか、学校にどこまで期待すればよいのか。それを考えるのが今回の記事です。
一昔前であれば、県立高校はほぼこの分野に関してはノータッチでした。県でトップの入試難易度を誇る名門高校であっても、偏差値40以下の入学が非常に容易な高校であっても、県立である限りこれはほとんど変わりがありません。一方で、中堅以下の私立進学校では、この分野の充実が学校の存在意義の一つになっていました。県立高校がやってくれないところだからこそ、私立がそれをやることで「差をつける」ことができたわけです。
1. 大量に出される宿題・課題・小テスト
しかし、最近ちょっと風向きが変わってきました。県立高校がどんどん「宿題・課題・小テスト」の量を増やしているのです。
実際に生徒と接していると、県立私立問わず「こなさなければいけないもの」を生徒たちは大量に抱えていることが分かります。特にマジメな「よくできる」生徒ほど、提示されたタスクを完璧にこなそうとする傾向があるため、気がつけば一日が「宿題・課題・翌日の小テストの準備・授業の予習復習」と、やらなければいけないことに塗りつぶされてしまうようです。一昔前の県立高校では、「部活動・イベント」が高1・高2の生活の中心でしたが、最近生徒に聞いてみると「部活はとくに忙しくないよ」という答えが返ってくることが多いのです。
この状況、保護者の皆さんはどうお感じになりますか? 子供がしっかりと勉強するようになって一安心、でしょうか? 結論を出すのはとても難しいところですが、大多数の生徒にとって、この「課せられた課題・小テスト」に追いまくられる生活はあまり効果的に機能していないようです。その理由は以下にあります。
- 時間の余裕がなく、インプットした知識を確認できない
- 大量のタスクを「短時間」で「片付ける」ことが求められるため効率が至上命題となってしまう
- 与えられたタスクをこなすことが勉強のすべてになってしまう
2. 機能していない小テスト
正直なところ、英単語の小テストや授業の週間小テストは全く機能を果たしていません。それはシンプルに、覚えた知識を振り返る機会がないからです。
学校によっては、ほぼすべての教科について毎日小テストが行われている場合もあります。そうなると、日々の勉強は翌日のテストの準備で塗りつぶされてしまい、前にやった小テストの内容が定着しているかどうかをチェックする余裕はなくなりますね。
もちろん、非常に優秀な一部の生徒はそれでもなんとか知識を吸収できるかもしれません。しかし、その場合であっても、目の前に無限に差し出される料理を口にひたすら運び続けるような作業は、「どのテストが一番重要か、二番目はどれか」と、優先順位を立てて主体的に取り組む能力を奪い去ってしまうでしょう。
さらに、この大量のタスクを処理し続ける経験は、本来の目的を見失わせてしまいます。理解したか、しっかり覚えたかが重要ではなく、とりあえず処理することがすべてになります。また、勉強している最中に興味を持った分野に寄り道をして、そこから自分でその分野を調べていく自発性も失われるでしょう。
これは実は、大学入試で求められる姿勢の「真逆」であるといえます。
どう使う? 学校の課題
ここまでに課題や小テストの洪水がもたらす害悪を長々書いてきました。つまり、このようなタスクを大量に課すことを「手厚い受験指導」と考えている学校は非常に危険です。では、これらのタスクは全く無意味なのかといえばそうでもありません。すべては使い方の問題なのです。
たとえば、新車を買うことになったとしましょう。車を買うとき、普通は「オプション」をつけます。大きなホイールや皮のシート、明るいライトなど、素の状態の車体に自分の好きなプラスアルファをつけて、自分好みの一台に仕立てるわけです。お店の人とこのオプションの相談をしているとき、こう言われたらどう思いますか? 「オプションはすべてつけてください。つけないということは“本気で買う気がない”ということですよ!」
おそらく驚くはずです。それもそのはず、「オプション」である以上選ばなければ意味がないですし、そこには「気」などというあいまいなものが介在する余地はありません。しかし、これが高校生活となるとそうはいかないようです。
先ほどの例でいえば「オプション」にあたる「課題や小テスト」(宿題はギリギリですが…)が絶対にやるべきものになっていて、それをやらないことは「不真面目」「怠け心」と断定されてしまいます。
ですが、本来オプションは自分のニーズに合わせて自由に選ぶものですから、言われるがままにやり続けていては破綻してしまうでしょう。マジメではあるが、主体的に勉強を考えられていない生徒が大学入試に大きく失敗することが多いのはそのためです。そして、実はいわゆる「進学校」の生徒にこのパターンがかなり多いのが現状なのです。
過度の課題は重荷にしかならない
生徒や保護者は大量の課題や宿題、小テストによって安心します。
しかし、ここまで見てきたとおり、この安心は「主体性がない」ことへの不安を解消するものであって、学力不足を解消することはまれです。とはいえ、今では県立私立を問わずどの学校でもこれらの「重荷」が出されています。
ですから、保護者の皆さんができることはただ一つ。
子供が課題をやっていない、あるいは小テストで悪い点を取ったときに、それは「意識的(目的を持っている)」なのか「無意識(怠けているだけ)」なのかを見分けること。そして、怠けているだけであれば、今回書いたような「自分で課題を“選ぶ”」という考え方を教えてあげてください。無意味なタスクを人はいやがります。しかし、同じ内容のタスクであっても、目的と効果が発揮していればやる気になるものなのです。極言してしまえば、目的とズレたタスクをやる必要はありません。そのような取捨選択の自由も許されつつある時期こそが高校生なのです。
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