文系の講師をやっていて、保護者の方からよく尋ねられる質問に「子供が本を読まない」というのがあります。また、「文章を読むのが苦手だから国語ができない」というのも定番の質問です。小学生から高校生まで、生徒の習熟度は大きく異なるにもかかわらず、問いはいつも「子供が本を好きではない」という内容です。
しかし、この問題、一見「好み」の問題に見えますが、実はそれ以上に「方法」の問題でもあります。今回は「読書」を一段掘り下げてみましょう。
本の読み方
さて、みなさん。みなさんはいつ頃から自分で本を読み始めましたか? たぶん文字を習う小学校1年生前後でしょう。ひらがな、カタカナを覚え、初級の簡単な本を読み、徐々に難しい漢字を習得しながら、本の難易度も上げていきます。まずは単語から始まり、単語のグループ、文、文章へと、意味を読み取る範囲を拡大していったはずです。
このような読み方は、小学校を卒業する段階でほとんどの生徒が習得します。理論上はこの段階でどんな本も読めるようになっているはずです。
では、その後、本の読み方を教えてもらいましたか? 「傍線部の作者の心情を答えなさい」「該当する箇所を10字以内で抜き出しなさい」。このような練習はこれまでなんどもやったでしょう。学校や塾で学び、入試もこれでくぐり抜けてきたのです。でも、これって「本の読み方」でしょうか?
実は、本を一冊通読するためには、いくつかの方法を知っていなければなりません。闇雲に文字を追っても、ただ一時記憶の続く範囲を離れ小島のように読んでいるだけ。つながりも構造も見えてきません。数百ページにも及ぶ文の集合体を「わかった!」と思えるようになるためには、全体の構造や作者の目的を推測し、それを前提として「今読んでいる箇所は全体にとってどういう意味があるのだろう」と考える必要があるのですが、それを学ぶ機会はほぼないと言っていいでしょう。
よって、そのことに自然に気づき、やり方を編み出した人だけが、本を好きになります。しかし、そのままではあくまで「偶然」でしかありません。
こんな状況を解消するために書かれた本を今日は一冊紹介しましょう。
『本を読む本』
1940年にアメリカで刊行されて以来世界各国で今も売れ続ける、読書に関する大ベストセラーで、京都大学の入試問題文として出題されたこともあります。この本では、文章を読む技術を習得し終えた(小学校卒業程度)読者に対して、「本」を一冊読むための技術を紹介しています。本の目次をどう使うべきか、紙面にどのような書き込みをするべきか、という実践的なアドバイスが詰まっており、最終的には論文を書くレベル(大学以上)の読書法までをカバーしています。私も読みましたが、これまで「経験知」として習得してきた方法がすっきりと体系化されていて、非常におもしろく内容を吸収できました。
冒頭の問いに戻りましょう。「子供が本嫌い」。これはひょっとしたら、読み方を知らないままに読んでみては挫折した経験を引きずっているからかもしれません。特に中学生以上で読書嫌いの人は、一度だまされたと思って読んでみると、新しい世界が広がりますよ。また、小学生の子供を持つ保護者の方は、自分で読んで、子供にやり方を教えてみてあげてくださいね。
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