教育研究所ARCS

今どきの中学生に勉強の意義をマジメに語る 【後編】

教育・子育て

久しぶりに中2生の前で「勉強の意義」について語った私。思ったよりずっと集中してくれたのは嬉しくもあり、身の引き締まる思いもありました。
さて前回では、勉強することの大切さは「自由を獲得する」ことにあるというところまでを紹介しました。
今回は話の後半部分「思考力を養うことの意義」について語ります。

私たちの祖先はネアンデルタール人より脳が小さい?

知識を持つことによって私たちは、個々の体験を知恵の体系として人に伝えることができます。一人の体験はたとえ一生分であっても狭いものです。
大勢の人々の多年の体験や、発見してきた法則や知恵は言葉によってまとめられ、蓄積され体系化されて「知識」となり、そこにアクセスすることで一つの共有財産となります。

人間が他の生命と違って高度な文化文明と複雑な社会をつくった理由も、この「体験を知識化する」という能力のおかげでした。

ところで話は変わりますが、皆さんは私たちの祖先である現世人類がネアンデルタール人など他の人類を差し置いて生き延びることができたのはなぜか知っていますか?

実はネアンデルタール人の方が現世人類より脳の容積が大きかったと言われています。それなのになぜ彼らは滅び、我々の祖先はサバイバルできたのか。

最近1つの有力な説として、我々の祖先の方が子供時代が長かったからという話があります。現世人類はネアンデルタール人ほど成熟が早くなかった、すなわち子供時代が長かったという説です。

要するに我々の祖先は成熟が遅く幼年時代が長かった。大人になるまでに時間を要した。ということはその間、大人のように狩りに出たり戦ったりという「仕事」は免除される代わりに、学ぶことに時間を使うことができたということです。

恐らく長い子供期間、大人から様々な「知識」を教わっていたのでしょう。
つまり現世人類の勝利と、今に続く進化は「教育期間」の長さに左右されたということです。

まさに私たちが今こうしているのは教育の勝利、知識欲(知的好奇心)の勝利なのです。

私たちは「知識」を得ることによって、体験するだけの人よりも広い視野を手に入れ効率良く生活する術を手に入れた。

知は力なりという言葉がありますが、知識は人間を人間たらしめる最大の武器と言えましょう。

勉強することでダマされない人になる

さて、勉強のもう一つの意義。思考力の大切さについて話しましょう。

現在皆さんの学ぶ教科というものは、基本的に「科学的に考える力」を養うのが目的です。科学的というのは、自然現象であれ社会現象であれ、物事を中立的客観的にとらえる姿勢です。
たとえば昔の人はカミナリとか地震とかの自然現象も、主観的つまり神の怒りが原因などと考えていました。
これを魔術的世界観あるいは宗教的世界観といいます。

また、地球が動いているとは考えられず太陽も他の星も地球を中心に動いている(天動説)と考えていました。
これは人間の五感を中心に考えれば、そう思わざるを得ないわけで人間中心主義(感覚優先主義)的な見方と言えるでしょう。

しかし徹底的な観察と、合理的な思考(数学的考え方)によってそれらの主観的考えは誤りであることが明らかになりました。

カミナリは神様が怒っているからではなく、電気的現象であり、地球も重力によって太陽の周りをまわる他の惑星の一つであることが分かりました。

今日では常識となっているこれらの真理も、当時としては革命的な発見であり、まさに科学的思考の成果なのです。

つまり「科学的な思考」を手に入れることで私たちは、魔術的(宗教的)世界観から抜け出し、また五感(感覚)に縛られた主観的世界観からも脱することができたわけです。

要するに偏見から自由になったということです。(ここでも自由がキーワード)

こうして見てくると、私たちは「知識」+「思考力」という道具を使うことで「真実」に迫ることができる。ウソや偏見から自由になれるということが分かります。

皆さんもご存知のように、ガリレオは地動説を唱えたため裁判にかけられました。
当時はキリスト教的世界観が常識でした。
教会の教えは絶対だったのです。
当時の多くの人々は誤った世界観を権威(教会)によって押し付けられ、ダマされていたわけです。

このように知識+思考力という道具を使えば、つまり正しく学んだ者は時代の偏見や価値観にダマされない人となる。物事の本質や真理を理解する可能性が高まるのです。

知識+思考力=教養

最後に結論を述べます。

知識+思考力のある人とは、すなわち教養のある人といえます。

そして教養ある人とは自分も他人も幸せにすることができるのです。

なぜなら教養ある人は、偏らず中立客観的にしっかり物事を見ることができ、何が真実で何が偽りかを判断できるので、混乱の中にも進むべき道を見出せるからです。

さらに、そのときどきの価値観(常識・偏見)に惑わされず地に足をつけて歩くことができます。

暗闇の中でも灯りをともして真理の道を歩むので、後に多くの人が楽に進んで行けるのです。これが人々に幸福をもたらすという意味です。

真に教養ある人間だけが社会を良くすることができるのです。

どうかこのことは覚えていてください。

ところで皆さんは、勉強がつまらない、何のためにやるのか分からない、そう思っている人もいるかも知れません。

皆さんが今やっている勉強は、基礎的な勉強なのでなおのことつまらなく感じるかも知れません。
しかしスポーツでも何でも、基本練習は退屈でつまらなく感じるものです。
でもその土台がなければ、試合(ゲーム)の喜びにたどり着くことができないのも事実。

スポーツや芸術と同じく勉強も一定の基本レッスンを経た後に得られる、達成感、喜び、楽しさ面白さというものがあります。
そこに至ったときの高揚感は、スマホゲームなどの比ではありません。

知的好奇心を満たす喜びには果てがないのです。
先の「祖先」の話を思い出してください。

私たちの身体には、祖先から受け継いだ知的好奇心のDNAが根付いているのです。

今日の私の話で、勉強というものに対する新しい見方が芽生えたら嬉しいです。

こんな遅い時間なのに最後まで聞いてくれて本当にありがとう。
また会いましょう。

 

こうして私の話は終わった。20分の予定を大幅に超過して40分近い長話だったにも関わらず、本当に熱心に聞いてくれたのは意外でもあり嬉しくもあった。(最後は大きな拍手で感動しました)
中2だからといって分かりやすい話にせず、真剣に真っ向から話して良かったと感じた。
また機会があったら生徒たちに語ろうと思わせてくれた貴重な時間でした。

759 views

今後のご案内

開催日: 2024年04月24日(水)

母親塾(Happy Mother Club)

2024年度 母親塾 5月開講 4/29(月)、5/6(月)母親塾説明会(ガイダンス)を開催します! ※申込受付中 真に子育ての知恵を学びたいお母さんのために …

お悩み相談室

子供に「だんだん苦手な教科が出てきたが、どこがわからないのかがわからない」と言われた

子供に「だんだん苦手な教科が出てきたが、どこがわからないのかがわからない」と言われた

最初から核心を書いてしまうと、この台詞には二つの意味があります。一つ目は「(ある単元、分野の説明を)一回聞いたが頭がこんがらがったので、(面倒くさいから)あきら…

中学受験が子どもをダメにする

「本当の学力」を望むなら、親は思い込みを捨てなさい。

ついに管野所長の書籍が発売となりました。講師歴35年以上、長年の教育実践の経験を1冊の本にまとめました。中学受験を検討中の方、子どもに本当の学力を望む方はぜひ読んでいただきたい書籍となっています。

ご購入・Amazonレビューはこちら

コメントはお気軽にどうぞ

メールアドレスは公開されませんのでご安心ください。
また、* が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

内容に問題なければ、下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。

CAPTCHA