今の世の中、手っ取り早く「成果」を手に入れたいという人があまりに多い気がする。
これは今の時代がモノでも情報でも気軽に入手できるようになったことが反映しているのかも知れない。
少し前まで何かの知識や情報を知ろうとすれば図書館などで調べたり、関連する機関や人物を探し当て手紙や電話で尋ねるのが普通だった。労力を要したのだ。
私が学生の頃は卒業論文やレポートを提出する際は、資料作りのために国会図書館などを利用したものだ。
しかし今やネットなどで瞬時に目的の情報にアクセスできる。必要な文献や資料の検索も容易だ。このこと自体は便利になったと歓迎できなくはない。(私もネットは大いに利用している)
ただ、問題は人々が労力を惜しむあまり表面的な理解に止まったり、目先の利益ばかり追求する傾向になりつつある点だ。
たとえば映画を観たい、本を買いたいときネットで見るとそれらの粗筋やレビューも出てくる。内容の粗筋は良いとしてもレビューなどで星が4つとか3つと評価され評者の感想も載っている。これを見て決める人も多いのではないかと思う。レストランなどのお店も同様にネットで検索できる。
これは便利なようで危険も多い。当たり前だが評価は評者の主観に過ぎない。そしてネットで評価しているのは訓練を受けたプロ(批評家)ではなく素人である。それを真に受けて判断するのは、もしかしたら大魚を逃がすことにもなりかねない。
いわば「解説」だけ読んですべてを理解したつもりになる危険性があるということ。
私は書店によく行くが、真に読みたいかどうかはやはり手に取ってパラパラめくってみるのがいちばん判断しやすい。著者のちょっとした言い回しや後書きなどでインスピレーションがわいたものを買うのが結果として正解だと信じているからだ。
ネットではこの、いわば肌触りのような質感は得られない。(もちろん私はネットを使うなと言っているわけではない。病院情報や通販などは私も役立てている)
映画にしろ本にしろ、私たちはお金を払う以上は「面白いもの」「役に立つもの」「自分に合ったもの」を手っ取り早く見つけたいと検索するわけだが、そのことがかえって「本当に自分に必要なモノ」を取り逃がしている場合も多いのだと気づきたい。
ネットはひとつの例だが、私たちは本来手間ひまかけて得るもの、いや手間ひまかけなくては習得できない領域のものまでもその労を惜しんで手っ取り早く手に入れようとしているのではないだろうか。
私が塾講師をしていた頃いちばん困ったのは「先生、早く答えを言って下さいよ」と催促する生徒だった。私がせっかく興味深い(?)背景を話しているのに「雑談(!)はいいから早く答えを」と言いたいのだろう。あるいは答えの出し方を教えろと。もちろん目先の点数(利益)しか考えていないわけだが、困るのは実力がつかないということ。これに尽きる。
勉強に限らず仕事でもそうだが、マニュアル的に表面だけ理解してもいざという時はうまく行かない。知識を知ることの他に、背景やら全体との関連性も考え実際に試行錯誤を重ねて経験を積む「手間」が必要だ。
そこをすっ飛ばして「成果」だけ手に入れようとしてもそうは問屋が卸さない。
手軽に獲得できるものは所詮その程度のものに過ぎない。「損をしたくない」「効率よく成果を上げたい」という過度の欲求は人を成長させ、実力を蓄える貴重なプロセスを阻害する。
今の時代この、失敗を含めた試行錯誤を厭う人がどんどん増えている気がする。子どもだけの話ではない。最近セミナーや研修などでも、手っ取り早く「正解」を求める人が多い。「要するにそれってこういうことですよね」とか「それにはどういう方法がありますか」と聞かれることがよくある。
これらの問いには先の生徒と同じく「要するに正解を教えろ」というニュアンスが含まれている。
「失敗や試行錯誤は嫌だ」「効率的に生きるほうが得だ」という発想だ。
子どもに対しても最近の親は我が子が「失敗」することを極度に恐れている。そして先回りして何が正解か教えようとしたがる。失敗も貴重な学びのプロセスだという真実を見落としてしまっている。子どもから失敗の機会を奪うことは後々の大失敗の要因となりかねない。
お手軽に「正解」だけを得ようとする安易な発想そのものが危険だと知って欲しい。自分の頭で考えようとせず、一定の労力や対価を払うことなしに得たものは身につかないだけでなく害をもたらす可能性さえある。
何が真実で何がニセモノかを見極める眼力が育たないからだ。情報が多い分かえって人はダマされやすくなっている。
今の時代、次々と流れてくる情報の中で何が真で何が偽か、何が自分に必要で何がそうでないか判別する能力そのものが問われている。ウノミにすることなく手間ひまかけてしっかりと自分の頭で考え、主体的に判断しなければならない。そうでなければ「皆がそう言ってるから」と無批判に一定方向に流されてしまうだろう。結果として「安物買いの銭失い」になりかねない。
そのためにも「効率」「正解」「お得感」ばかり追うのでなく、一見遠回りでも地道な探求と体験そして自らの頭で考える労力を惜しまないこと。つまりあえて試行錯誤というプロセスを踏む姿勢を持っていたい。
これは自戒を込めて言っている。
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