教育研究所ARCS

微妙な違いを見る

教育・子育て

10月も半ば、あと少しで11月と、本当にこの季節は飛ぶように時間が過ぎていきます。わたしの勤める塾の教室には「センター試験まであと○○日」と大きく掲示してありますが、その日数が10単位で減っているのにふと気付いて愕然とします。

さて、受験業界では10月といえば「追い込み」の時期ですが、世間一般では「食欲」と「芸術」の秋。今回はそれにちなんで「芸術」っぽいお話です。

先日授業で「文学史」を教えることがありました。夏目漱石の前期三部作は? 森鴎外の代表作は? というアレです。大学入試ではこの分野がストレートに問題として問われることはほとんどありません。それよりもむしろ、国語や社会の問題を解く際の背景知識として必要になるものです。そんなおまけ的な分野であるにもかかわらず、しっかりやるとかなり難しいのが文学史。中学時代のように名作だけ覚えておけばよい、という訳にはいきません。作品の傾向による「派閥」の変遷を、当時の時代背景と合わせて理解していかなければならないのです。

文学史の流れ

私たちが現在何気なく読んでいる「小説」の形式が生まれたのは、大体18世紀ころのことです。それまでも「小説」という言葉(それに類する言葉)はあったのですが、私たちがイメージするものとはだいぶ違います。そこで、私たちの小説は「近代小説」と名付けられて区別されます。

この近代小説、作られた当初から現代までいろいろな変化をしてきました。18世紀の「古典主義」に対して、みずみずしい感情を重視する「ロマン主義」が起こり、そのロマン主義に対して、より精密に社会の現実の姿を紙の上に描き出そうとする「写実主義・自然主義」が起こり、と展開していきます。絵画や音楽が趣味の方は、ロマン主義や写実主義など名前を聞いたことがあるかもしれませんが、文学も絵画も音楽も、大きな流れでは、

①理性でものごとを分析しようというアプローチから、

②理性では割り切れない世界を描こうとする動きが起こり、もう一度、

③理性的に社会を分析し、描こうとするアプローチに戻る

という動きを示しています。

一つのやり方が支配的になると、それとはあえて真逆のことをやろうとする人々が出てきます。こうしてテニスのラリーのようにボールが行ったり来たりするのです。

ファッションもおんなじ

最近服屋さんに行くと30代以上の人には懐かしい”ある服”が再び流行っています。

その名も「MA1」

元はアメリカ空軍のパイロットのために開発されたジャンパーなのですが、80年代末から90年代初頭かけて一度大ブレイクしました。80年代末に公開されたトム・クルーズ主演の映画「トップガン」で登場人物がかっこよく着こなしていたこともあって流行し、道を歩けば男性はみなMA1を着ているといってもよいほどの普及ぶりでした。ブームは大きければ大きいほど、それが過ぎ去った後のダメージも大きくなります。MA1の場合、世間からほぼ忘れ去られて約25年。ついに今年再ブレイクとなったわけです。

文学の世界と同様、ファッションも常に両極を揺れ動きます。身体にぴったりした細身の服が流行ると、それに飽き足らない人が出てきて逆にゆったりしたシルエットの服を着始めます。そして、ゆったりが流行ると今度は細身が流行り、と行ったり来たりを繰り返すのです。

微妙に違う

流行が行ったり来たりを繰り返す、という話をここまでしてきましたが、では、ひたすら同じことを繰り返しているのでしょうか? 実はそれは違います。MA1にしても、全体としては同じような形をしているものの、細かいディティールを見てみると最初に流行ったときよりは細身になっています。ですから、25年前に買った服を押し入れから引っ張り出してくると、なんとなくしっくり来ない。これは文学も同じ。同じことをやっているように見えて微妙に違います。古典主義と写実主義は似たような部分を持ちつつも、その目的意識は全くの別物です。

このような「微妙に違う」を楽しむこともまた、芸術を楽しむ方法の一つなのかも知れません。ほんの少しの違いに着目し、それが「なぜ違うのだろう」と考えることで、対象に対する理解は深まっていきます。

文学史もファッションも、ただ作品名を覚えるだけでなく、ただ雑誌に載っている流行りの服を買うだけでなく、いろいろと細かいところに目を向けてみると、意外とおもしろい気付きが潜んでいます。細かいことをひたすら覚える必要がある文系科目だからこその楽しみですね。

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