教育研究所ARCS

子どもに何かを伝えるには~無力な「ことば」より「背中」で語る~

教育・子育て

私たちは他者に何か伝えたいことがあるとき、通常「ことば」で伝えようとします。
当り前ですね。

あの花きれいだね。あっ、あそこに犬がいる!

こういう目に見える「事実」を伝えるだけなら、ことばは十分役に立つ道具です。

しかし、ひと度自分の気持ちやら少し複雑なニュアンスを伝えようとすると、必ずしも「ことば」は万能な道具ではなくなります。

とりわけ相手にとって都合の悪いこと、たとえば好ましくない態度を改めさせよう、などというとき「ことば」はなかなか相手の胸に響きません。

「あなたのためを思ってるからこそ言わせてもらうけど…」
このようなことばは通常説得力を持ちません。

なぜなら人は誰でも自分なりの価値観を持っているからです。
「そんなこと言われたって、私はそんなつもりじゃないし…。そんな言われ方したくない。」

そのような防御的な反応がかえってくるでしょう。

ここまでの話は誰でも分かると思います。少しでも人生経験を積んでいれば、いかに「ことば」が時に無力かを経験をしているからです。

ところが多くの親は我が子に対し、実に簡単に「ことば」で正しいことを伝えようとします。

「そんなことじゃ将来困るよ」

つまり子どものためという美名のもとにことばを使って態度を改めさせようとしているわけです。

ことばへの無力さを良く知っているはずの大人でありながら、なぜか我が子に対しては「ことば」を万能薬のように行使してしまう。

もちろん伝わりません。

子どもに伝わる2つの話法(言動)

親が子どもに何か伝えたいとき。
それはどうすればいいのでしょう。

2つのポイントがあります。

親が直接子どもに向かって言うのではなく、間接的に伝わるようにする

たとえばお母さんが「お父さんあなたの身体を心配してたわよ」と子どもに言ったとします。
「毎日朝から部活の練習やらで大変だな。そりゃあ、勉強が進まないのは困るけど、無理して身体こわさないようにしなきゃな…そうお父さん言ってたよ」

これを聞いて子どもはどう思うでしょう。
日頃ムッツリしている父親が自分の身を案じてくれていることを知ったら、喜びを感じるでしょう。

そして疲れたと言って勉強をサボっている自分を恥じるかも知れません。

少なくとも父親の親心を感じるに違いありません。

あるいは夫婦の何気ない会話も重要です。

たとえばテレビを観ていて「安保法制か。いよいよ日本も戦争できる国になったな…」などという会話をしているとします。

子どもはこれを聞いて「そうなのか。安保法制と戦争は関わっているのか…」と秘かに思うでしょう。

親の何気ない言葉、無意識の言動を子どもはよく聞いているものなのです。

そしてそういう「ことば」はいつまでも子どもの心に残るものなのです。

親が子どもに「言って聞かせよう」とか「何とか子どもの態度を変えよう」と意図して直接的に言うことは、まず伝わらず、伝えようと全く思っていなかった自らの考えや言動の方こそが子どもに伝わるのです。

これが間接話法による伝達です。

親自身が自分の人生を充実させることによって子どもにメッセージを送る

特に母親の心の安定は重要です。

たとえば母親が仕事のことや人間関係などでイライラしている場合。

いくら子どもに「正論」を吐いても子どもは全く聞く耳をもたないでしょう。

伝わるのは母親の「イライラ」だけです。

この場合親は「子どもが言うことを聞かない」と嘆くより、自らのイラだちと向き合い何としてでも心の平安を取り戻すことの方が先決です。

子どもは実に親の日頃の姿をよく見ているものです。

親が自分の人生を充実させて懸命に生きるとき。つまりイキイキした魅力的な大人として子どもの目に映るとき、子どもは親に本当の意味で親しみを感じ「大人になるのも悪くないな(笑)」と思うでしょう。

そうすると、子どもに直接アレコレ言わなくても自然に変わります。

子どもも前向きになるのです。

昔の人はこの辺の機微を知っていたのでしょう。

「子は親の背中を見て育つ」
というのはそういうことです。

私たちは「ことば」の効能を信じ過ぎているような気がします。

何でも「ことば」で言い聞かせることを当り前としている。

どうでしょう。一度「ことば」を捨てて背中を見せては。

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