現在私は塾で高校生を教えていますが、最近立て続けに中学生を教える機会がありました。数年前までは中学生に社会を教えていたこともあって、中学社会のカリキュラムや教科書の内容は熟知していたつもりです。しかし、今回新たに授業をするために読み返してみてびっくり!
教科書が「マシ」になってる!
数年前まで、社会、特に歴史の教科書は悲惨でした。重要なできごとがぶつ切りに並べられ、最初から通読しても意味が通らないのです。そもそもあるできごとが重要かどうかは、そこに至る流れやそのできごとの後に起こったことを見てみなければ分かりません。にもかかわらず、前後がすっぱり省かれていました。言葉を換えれば「一問一答問題集を文章化したもの」だったと言えます。
私自身は世界史が専門ですが、このぶつ切りのしわ寄せの最たるものがこの世界史分野です。四大文明を習ったら、メインは一気に大航海時代・ルネサンス・宗教改革に飛びます。その後はいきなりフランス革命・産業革命にワープして、最終的に第1次世界大戦・2次世界大戦を日本との関わりから説明していきます。これではどんなに歴史的洞察力があったとしても何が何だか分かりませんね。さらにやっかいなことに、できごとの説明を過度にかみ砕くため、重要な要素が抜け落ちていました。
そんな教科書ですが、教育指導要領の改訂により学習量が増えた結果、これまで切り捨てられていた情報が復活しています。名前すら出てこなかった清教徒革命や名誉革命もしっかり説明がなされていますし、それぞれの時代の繋がりも説明を補ったために分かりやすくなりました。学習量が増えると生徒の負担になるのではないかと思われるかも知れませんが、こと歴史に関しては逆です。流れがよく分からず悩んでしまうより、よっぽど効率的に理解できますし、流れが理解できれば知識も覚えやすくなります。そんなわけで、とりあえず現在の教科書は「マシ」です。
まだ足りない
でも、まだ足りません。西洋史だけに限っても、例えば「百年戦争」は省かれています。百年戦争は、中世の西欧に存在した二つの巨大勢力「アンジュー帝国」(現イギリスと現フランス東部)と「フランス王国」(現フランス中部・西部)の勢力争いに端を発して、最終的には現在のイギリス、フランス両国の国境が確定するという、いわばヨーロッパの二大国の誕生の歴史です。このできごとがあってこそ、後の絶対王政があり、絶対王政があってこそ市民革命があります。
では、百年戦争はこんなに重要なのに、なぜ教科書に載らないのか。もちろん紙面の都合などいろいろありますが、いちばん大きいのは「複雑すぎる」ところでしょう。ちゃんと説明しようと思えば、そもそも現代の感覚でいうイギリスやフランスがもともとは「存在しなかった」ことを伝えなければなりませんし、似たような名前の王様が何人も入れ替わり立ち替わり出てきて頭がこんがらがるかもしれません。唯一有名なのはジャンヌ・ダルクくらいでしょう。
副読本を指定しては?
百年戦争のような「(中学レベルにおいては)地味だけど超重要」なできごとは山のようにあります。いちいち授業をしていたら、社会科の他に「世界史科」を新設しなければならないでしょう。そこで提案したいのは「副読本」。世の中にはこういう「地味系」のできごとを魅力的に描いた解説書が数多く出ています。これを使わない手はない。学校でシステム化するのが難しければ、家庭や塾で指示して読ませてみればよいかと思います。
「中学生には複雑すぎて分からないはず」というのは勝手な思い込みに過ぎません。社会が苦手な生徒はたいてい「覚えること」が苦手です。ではなぜ苦手かといえば、単語が「意味のない文字列」に見えるから。ならば、「意味のある文字列」にしてやればよく、そのためには流れをつかむことが絶対に必要です。
そしてありがたいことに、古来から多くの歴史学者が、過去のできごとに「流れ」をつけてくれています。AというできごととBというできごとには、本来つながりなどありません。ただAとBが起こったというだけ。しかし、この二つを歴史家が関連づけたことにより、流れが生まれます。Aの「結果」Bが起こった、と。このロジックはそこまで複雑でもありません。たいていはA「だから」Bの形に収まるのです。歴史学者が積み上げてくれたこの遺産を十分に活用すれば、複雑すぎることはありません。
よく分からない箇所を追求することは、一見回り道に見えますが、長い目で見れば近道になります。新書コーナーを探すと手頃な解説書がたくさん出ていますので、是非お子さんに勧めて挙げてください。そしてついでに、お父さんお母さんもちょっと読んでみてください。おもしろいですよ。
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