ここ数年、法学部の人気が下がり続けている。法学部といえば、文系学部の中では「最も就職に有利な学部」であるといわれた、いわば定番の学部です。一昔前であれば、たとえば文学部に進みたい学生に保護者が「法学部のほうがつぶしがきく」と志望学部変更を迫ることもすくなくありませんでした。それがいまや、毎年志願者が前年比を割り込み、東大の文Ⅰ(法学部)でさえ倍率が低下しています。これは一体どうしたことでしょう。
法学部の人気が低下している理由
その理由を考えてみるに、身近なところでは法学部のイメージが沸きづらい現状があります。高校生はまだ社会に出ておらず、世間にはどのような仕事があるかよく知りません。その状況で将来を考えて大学を選ぶとなると、自然に「分かりやすい仕事」に目がいきます。たとえば医師や看護師、弁護士、会計士など、資格を必要とする職業です。この中でも弁護士は文系最難関の資格の一つとしてあこがれの対象・目標でした。
しかし近年、法科大学院の設置と司法試験の改革により弁護士の人数が増え続けています。一方で仕事の量は変わらない。その結果、特に若手の弁護士の就職難、仕事不足状態です。この状況はテレビなどで特集が組まれたこともあり、広く一般に知られるようになりました。実際に私が志望校面談をする際に「法学部は?」と振ってみると、「弁護士って将来暗いんですよね」と答える生徒が結構いるのです。法学部=弁護士ではないことは当然なのに、それでもやはりイメージはついて回ります。
さらに、もう一つ、今度は少し大きな理由を考えてみましょう。それは「社会への関心の低下」です。私は授業の中で頻繁に現代社会の問題点を取り上げます。人口問題や戦争のような具体的なものから、差別などの根源をさぐる「差異」の問題など、大学入試でもよく出るテーマです。しかし、生徒たちの反応を見ていると、知識、理屈としては理解しているものの、自分のこととして考えている感じはあまりしません。
数学の問題と同じように、抽象化された論理を読み解くことだけに終始しているように感じます。部活動や学校行事は「リアル」であり「自分のこと」ですが、人口問題は問題集の中の鬱陶しい例題に過ぎないのです。でも、それはある意味当たり前です。むしろ人口問題や戦争を「自分のこと」として引き受けるためには、自分がそれらの当事者であると仮定し、将来それらの問題を解決するのだという意識が必要となりますが、そのような意識は自然なものではなく、人工的に作らない限り生まれてきません。「自分は社会を動かしていく人間である」という意識を作り出していく教育がなされない限り、生徒の意識はその瞬間の「リアル」なものに固定化されたままです。政治的なスタンスを教えるのではなく、問題があること、そしてその問題と自分が関わるのだということを教える教育が必要となるのです。
就職をからめた実利的な問題以上に、より根本的な部分が変わらない限り、今後も長期的には法学部不人気が続くような気がします。
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