教育研究所ARCS

シリーズ教育を斬る!第3回「‘好きだと思う’ことのチカラ」

好きだと思う’ことのチカラ

本企画は、教育研究所ARCSが指摘する「現在の小学校から大学までの教育の問題点」「今後の日本にはどのような教育が必要か」という点について、各界で活躍する方の視点から意見を伺うものです。

子どもたちを取り巻く教育環境に鋭く斬り込むことで、多くの方への参考となれば幸いです。是非ご一読下さい。

ゲスト:高橋晋平(株式会社ウサギ代表取締役)
聞き手:池村卓人(教育研究所ARCS教育事業部長)

ゲストプロフィール

高橋晋平秋田県北秋田市出身/東北大学大学院情報科学研究科修了
株式会社バンダイにて、第一回日本おもちゃ大賞を受賞した「∞(むげん)プチプチ」や、自らの名を冠した「瞬間決着ゲーム シンペイ」など、50点以上の玩具の企画開発、マーケティングに携わる。現在はアイデア・コークリエイターとして新サービスの開発、玩具・ゲーム・クイズ制作、執筆、講演など全国で幅広く活躍中。
http://ameblo.jp/simpeiidea/

‘没ネタ’こそが宝の山

池村─最初にちょっといいですか? 『シンペイ』を作ったのは高橋さんだったんですね。

高橋:はい、そうですが『シンペイ』をご存じなんですか?

─私が勤めている塾にちょっとした図書室みたいな部屋があるんですね。自習している生徒はそこにある辞書や参考書を自由に使ってよいのですが、息抜きのためにパズルゲームとかそういうものが置かれた一角があるんです。

高橋:え、そこにシンペイが!?

─はい、そうなんです。生徒がコマをひっくり返したりしてなんやかんやでハマっていたんですよ。それが私の記憶の断片にあったのですが、まさか高橋さんのアイデアだったとは!

シンペイ『シンペイ』とは…
二人対戦型ゲームで、交互にコマを置き、自分のコマを一直線に3つ並べれば勝利というシンプルなルールだが、「上の世界と下の世界」「はさんで相手のコマを飛ばす」などオリジナルルールの効果で奥の深いゲーム性となっている。
詳しくはこちらへ↓
http://www.asovision.com/simpei/top.html
高橋さん高橋:シンペイというのは僕の下の名前なんです。それは、感激です。その遊んでくれた生徒さんたちの前で今日お話させて頂けるのは。
(※実はこの取材後、インタビュアー池村の勤める学習塾の中学2年生を対象に「職業を考える」というテーマで講演をしてもらうことになっていた)

─あのシンペイを考えた人か…って、きっと生徒たちは感激すると思います。さて本題ですが、高橋さんはアイデアマンとして有名ですが、普通の人はそう簡単に自由な発想というものができないと思うんです。その差は何かなと。日本の教育にも原因があったりするのでしょうか。

高橋:僕は今の教育事情にあまり詳しくないのですが、結局アイデアが出る出ないというのは、『どれだけダメなアイデアを出せるか』だと考えています。商品開発の用語で言うと‘没ネタ’といいます。つまり採用されない企画ですね。これをいくつ出せるかが勝負になるんです。

─何となくわかる気がしますが…それはなぜでしょう?

高橋:そもそも良いアイデアをいきなり出すなんていうのは不可能なことなんです。だからダメかもしれないアイデアを何十個とか何百個と出すわけです。そうするとまぁ仕事の現場では否定されたりするんですけれど、「この企画はここがこうだからダメなんだ」というようなことがだんだんわかってくる。それでようやく良いアイデアが出てくるようになるんです。

─ということは、‘失敗’というプロセスを経ないと使えるアイデアは出てこない、ということになりますね。

高橋:まさにその通りです。で、僕の想像ですけれど現代の子どもたちは何か勉強していてわからないことがあるとすぐにインターネットで検索しちゃうんじゃないかと。

池村─ご想像通りです。ネットがお手軽なツールになったせいで、調べものを宿題にすると適当なサイトを探してプリントアウトして終わり、みたいな生徒も実際にいます。ひどい場合には「自分で考える」ことが前提の宿題でも、一般論を簡単に調べられてしまうので、それの丸写しだったり…。
高橋さん高橋:なるほど。いずれにせよ現代は‘正解のある問い’について言えば‘より正解にたどり着きやすい時代’だということになるので、必然的に失敗体験そのものが減ってきますよね。さらに輪をかけて「失敗することが嫌」だったり「失敗すると恥ずかしい」という気持ちが強まってくると ‘人と違うアイデア’というものが生まれることはなくなってしまいます。

─高橋さんは失敗することが嫌ではないんですか?

高橋:僕はむしろ‘ボツる’ことが好きなんです。僕は決して特別に発想力が優れているわけではありません。で、そういった没ネタを五千個ぐらいためていて、会社の後輩に見せて自慢したりしていました(笑)。
─それはスゴイ量ですね。そういう気質は社会人になってからのものですか?

高橋:いえ、昔から失敗はたくさんしてきましたよ。学生の頃で言えば、小学生時代の夏休みの自由研究とか。

─高橋さんの自由研究か…興味深いですね(笑)。例えばどんな題材を?

高橋:なんのきっかけだったか父親がpH試験紙を手に入れてきたんです。そしたらそれにハマってしまいまして、身近にあるものから山や川にある色んな液体のpHを片っ端から測定しまくって、それを自由研究にしたんです。さらにその翌年には軽石の研究をしましたね。地元の秋田にたまに火山でできた石が落ちていたりするんですよ。これまたそれをノコギリで延々と切って中の空洞の大きさをひたすら調べる、みたいな。

『pH試験紙』とは…
色の変化により0(強い酸性)~14(強いアルカリ性)の数値で、細かく水素イオン濃度を測定できる試験紙のこと。中性の数値は中央の7となる。

─渋いテーマ設定ですね。最近ではそれこそネットに自由研究の定番テーマみたいなものとそのやり方のマニュアルが溢れていますけれど、そんなストイックな内容はなかなか載っていないでしょうね(苦笑)。それで調べた結果、どんなことがわかったんですか?

高橋:それがですねぇ、「こういうことがわかりました」という結論は特にないんですよ。どちらも大量にデータを取っただけですから(笑)。まぁ小学生だからそれで通しちゃいましたけれど、先生や周りの大人もコメントに困っていたのは子どもながらに感じていて、自分でも「なんか違うよなぁ」という気持ちになっていたんです。

─オリジナルなものを出してはみたけれど、成功したとは言えない感じでしたか。

高橋:そうですね。ただそういうことも‘やってみて初めてわかる’わけじゃないですか。これを最初から失敗を避けて、ありがちなテーマをありがちな方法でやったとしても得るものはあまり無いと思います。