教育研究所ARCS

シリーズ教育を斬る!第2回「アートと自由と学校教育と」

一貫校、果たしてそのメリットは?

─そういう風に学生が変化してきた原因は何なのでしょう。実は私が勤めている塾で、まさに○△学院出身の講師がいるんですよ。彼はオクダさんの美術の授業はとても面白いと言っていました。とにかく生徒の自由なアイディアを引き出すのが上手で、その中で少し技術的なアドバイスもある。そこのバランスが絶妙だとか。

オクダ:あ~そうでしたか。いやいや、それでも自分が授業の中で子どもたちに大切なモノを伝えきれていない部分はあるとは思います。ただ、学校自体が変化してきたことも大きいかな。

―と言いますと?

オクダ:まず、教師がつまらなくなった!(笑) なんか生徒を縛る方向でクソ真面目な人が増えたんです。昔はハチャメチャで面白い先生が結構いましたよ。

聞き手:池村─あ、その話興味あります。
ゲスト:オクダサトシオクダ:例えばですねぇ、体育の教師でなぜかロシア語がペラペラな人がいたんですよ。で、僕にロシア語の本をくれたんです。それで後日「オクダ君、あの本読んだ?」って聞かれたんだけど普通読めないじゃないですか。だから読んでないって答えたんだけど、実はそれ、官能小説だったんですよ(一同爆笑)。

─それは面白い! 単なるそっち系の本じゃなくロシア語っていうところが一ひねりあるし、伝統の男子校ならではのエピソードですね。

オクダ:よく比較対象されるもう一つの大学付属校があるじゃなですか。あっちにも知り合いの美術講師がいますけど、みんなピシッと背広を着なくちゃいけないし、授業では助手が必ずそばについて見張られてるって言ってました(苦笑)。こっちなんか短パンとサンダル履いていって、それが禁止だと知ったのは教師になって5年目ですもん。

─あって無いようなルールがまたいいんですよね。○△学院はまさにそんなイメージです。

オクダ:他にもハチャメチャな感じで面白い先生がいっぱいいたんですが、そういう先生がいなくなってしまって。

─先ほどの話ですが、なぜ生徒を押さえつけるような厳しさへ変化したんですか?

オクダ:少なからず原因になっていると思うんですが、数年前に付属の中学部が併設されたんですよ。それで学校に悪い意味で慣れちゃうんですかね、高1の時点で中学部上がりの子は結構ダラダラしちゃって態度も良くなかったりするんです。そういうレベルで問題になるような学校じゃなかったんですけどね。で、学校側も厳しくしないといけなくなる。

─点数を過剰に気にする子が多くなったのもその影響がありそうですか?

オクダ:う~ん、一概にそうだとは言いません。ただやっぱり、テストの点数を一番気にしてきたんだなっていう子が昔より多いのは確かです。ボクはうちの学校しか知らないんですが、今は私立でも公立でも中学校を併設するところが増えてるじゃないですか。逆に訊きたいんですが、これは何がメリットなんですかね?

オクダサトシ取材風景

─難しいですね。学校にしっかり一貫校としての理念があって、そこに家庭が賛同して通わせるというなら大いに意味があると思います。でも大学付属ということで高校受験ましてや大学受験もしなくてよいにもかかわらず点数ばかりを気にするのでは、現実としてそうなってはいないと言わざるを得ないでしょうね。

オクダ:親がどう考えて中学受験をさせているかっていうところが知りたいですね。僕は自分の子に中学受験させる気は全然ないので。

─私が思うに、なんだかんだ言っても周りの大人の影響が全てだと思うんです。点数に過敏になっているなら、それは親や教師が言うからですよ。また、一貫校に通わせるのはいいとして、もしその理由が「受験しないで有名大学へ行けるから」「楽ができるから」という価値観であれば、それは必ず子どもに伝わります。

オクダ:よく僕が生徒に「君たち、12歳から22歳までの11年間がすでに決まってるってどうなの?」って半分冗談で言うんです。そしたら「やっぱ、そう思いますよね~」って返ってくるわけです。もともと賢い子たちだから、温室でずっと守られて育つことの危うさっていうのが理解できるんですよね。子ども側がそうである限りはなんとかまだ大丈夫かな、とは思います。