数学の途中式をいくら書かないと正解につながらないよ。 といってもなかなか書きません。
文面からの推測ですが、おそらく次の点が原因だと私は考えます。
回答者:池村 卓人
ツムツムさん、質問メールを拝見しました。池村と申します。
さて、現状としてお子様の成績が下降し、モチベーションも下がった状態にいるということで、ツムツムさんのお気持ちお察しいたします。
ところで、なぜ彼は今やる気を失くしてしまっているのでしょうか。
文面からの推測ですが、おそらく次の点が原因だと私は考えます。
褒められる事柄の中心が「天性の才能」の部分であったこと。
このことがおおむね間違いのない事実であったと仮定して、なぜそれが問題なのかということを述べます。
まず、本質的に子どもは‘親に喜んでもらいたい’という潜在的欲求があります。
そこには、‘自分を評価してもらいたい’という承認欲求も含まれます。
そのような心理がある中で、
「スゴイ才能だ」「人より頭がイイ」
という褒め方でメッセージを発した場合、どうなるか。
→頭の回転が速いことがスゴイこと。
→いかにスピーディに正解するかが命。
→途中式など書くなどもってのほか。頭の中でやれてこそ価値がある。
このような発想になりがちです。
いかにスゴイ自分を見てもらうか、が目的となってしまうのです。
その段階に至ると、いくら途中式の大切さを説いたところで効果は薄いでしょう。
つまり、現在の状況を生み出した根っこの原因は、「途中式を書かないから」ではなく、「才能を褒めてもらうことが目的だから」ということになります。
(※幼少の頃の私もまた然り…そして多くの出来る子の挫折を見てきて確信していることでもあります)
算数(数学)の内容が高度になればなるほど、ツムツムさんのおっしゃる通り、途中式や日本語などによる‘過程の整理’が必要不可欠になるので、先のような発想で問題に取り組むには限界があります。
となれば、次第に出来なくなる自分に気づくことになります。
そして‘こうでありたい自分’とのギャップに煩悶しながら、次第に数学の道を究めることを諦め、むしろトラウマの記憶として残り、数学嫌いになってしまうことも珍しくありません。
もし、ご家庭での状況がまったくこれに当てはまっていないのでしたらご勘弁を。
しかし、ここまでの話で大いに思い当たる節があるならば、以下のことを心がけていただきたいと思います。
1. 褒めるべきは「取り組む姿勢」「努力の過程」「大きな価値への気づき」
「誰もが諦めたくなる課題にチャレンジしようという気持ちが素晴らしいね」
「時間をかけて、よく調べたね」
「その考え方、ピタゴラスの発見のもとになったものだよ。よく気づいたね」
このような褒め方は、派手さはないものの効果的です。
なぜなら、学問に向かう上での基本姿勢に価値を置いた褒め方だからです。
「勉強とはこうあるべき」という直接的な表現でないからこそ、価値観として無意識下に浸透していく影響も大きくなります。
結果、子どもにも「人類積み上げてきた英知の過程をたどること、そこに畏敬の念を持って学ぶことが大切だ」という価値観が根付きやすくなります。
そうなれば、「解けないから面白くない、やる意味がない」という思考にはなりません。
2. 数学の答案は一種の芸術作品
数学の奥深さを実感として感じられるようになれば、次第にそれは一種の「芸術」へと昇華します。
そこにある美しさを最も感じやすいのは‘証明問題’ではないでしょうか。
例えば、図形の世界においてなくてはならない「三平方(ピタゴラス)の定理」。
この証明方法は無数にありますが、私が涙した「アインシュタイン10歳のときの証明」を紹介します。
三角形x、三角形y、三角形zは全て互いに相似です。
ここで、「相似比の2乗は面積比」であることを用い、
相似比
面積比は
また面積の関係は
∴a2+b2=c2となる[証明終わり]
相似の性質を利用したシンプルな証明…。
これを芸術と言わずして、何を‘美’と言うのか!
という感じです。
ちなみに、恐縮ながら私オリジナルの証明法(※ブログ:質問にお答えします~小学生でもわかる数学とは?~)もありますので、ご参考までに。
少々マニアックな領域に話が飛びましたが、実は数学の芸術性を認めることで、ツムツムさんの主張が正当性を帯びる、ということを申し上げたかったのです。
すなわち、「途中式は数学の芸術的過程である」ということです。
お子さんはまだ中学一年生ということですので、十分に軌道修正ができる年齢です。
以上のことがらを参考にしていただき、お子様の意欲が向上すれば幸いです。
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