教育研究所ARCS

【第11回】さすらい教師孤軍編

塾長奮闘記

さすらい教師孤軍編

あともう一つ高校での体験。都内の私立男子高での話です。ここは付属中から来る者のクラスが1、他は全部高校からの入学クラスで1学年600人もいるマンモス学校。なかなかの進学校で浪人含めて早慶に200人以上合格させているところでした。男子高といえばまず校舎が汚い。トイレはいつも便器から水があふれ使えたものではなく、教室も生徒が天井に投げつけたパンの中身のジャムがしたたり落ちてたり…。とそんな話はどうでもいいか(笑)。

生徒たちは皆、進学校なのでさぞや勉強熱心だろうと思いきや…フタを開けてみれば、1クラス50人以上も詰め込まれた授業風景は――隣りとしゃべっている者、堂々とつっぷして昼寝を決めこんでいる者、怪しい雑誌や小説を読みふけっている者と意外なヤル気のなさでした。親が見たら泣きますコレ。

とにかく「授業は退屈なもの」と決めてかかっている感じでした。まぁ、それでも熱心な生徒も3分の1ほどいて、埼玉の高校よりはマシだったかな…。でも、男子校の「何でもあり」という雰囲気はそれなりに楽しかったです。私も若く生徒たちと年の差があまりなかったので彼らも気軽な調子で話しかけて来るんですよね。雑談だとノリがいい(笑)。中には調子に乗って「先生、今度原宿にナンパしに行きましょうよ~」などと授業中なのに言う子もいる始末。「アホ! 何で俺がお前と一緒にナンパしなきゃいけないんだ」一同爆笑。とまぁ、バカ話ができるわけです。

しかし肝心の勉強はというと意欲がない。まず付属中から来た者はごく一部のすごい秀才を除くと全く学力無し。彼らも「ハイ。アホのJ組なんで…」と(付属出身はJ組だった)卑下する始末。高校入学組も先の「原宿ナンパ」の少年(テツ君)のセリフだと「この高校は第一志望じゃないので…」とヤル気を見せない。確かにここの生徒たちは開成や早慶附属に受からなかった者が多く、それがコンプレックスのようでした。埼玉のときと同じ構造ですね。

でどうしたかと言うと、彼らにまず定期テストの得点アップで自信をつけさそうと。どうせなら学年1位にしてやろうと大胆なことを考えたわけです。彼らは中学時代いずれもトップクラスの子たちでしょう。埼玉の生徒たちとは違う。問題は「動機づけ」なのです。そこでまずリーダー(私の担当教科)の本文中重要な文に赤線を引かせ、毎時間そこだけテストをする。そして平均80点以上の生徒には、万一英語が赤点でも追試のとき加点する。こう約束したわけです。これは確かに目先の目標ですが、目先であっても目標を設定することが、自信喪失気味の彼らには必要だと思ったんです。

こうして毎回小テストをくり返し、いよいよ定期テストに突入。結果は私の担当する2クラスが選抜クラスを抜いて平均点で学年1位・2位のワンツーフィニッシュ! あの、赤点しかとったことがないと豪語(?)するテツ君も90点以上獲得! 元々できる子たちですから当然といえば当然ですけどね。

採点後、英語科のベテラン教師が私の所へ来て「管野さんのクラスすごいですね」。(フフフそうでしょう…)と私も内心してやったりと得意満面でした。ところが…! 続けて「もしかして採点の仕方が甘いんじゃないの」と言われ、ガーン!! せっかく生徒たちが頑張ったのに点の付け方が甘いとケチをつけられたのです。この日のために毎回テキストの重要文を覚えさせてきた私の努力は…? まぁ、今考えればこの先生に悪気がなかったのは分かります。単に意外だったんでしょうね。あのヤル気のない生徒たちが、非常勤の若造がちょっと教えたぐらいでこんなにアップするかぁ…?と。当時の私にしてみればこの男子校や埼玉、また千葉県の高校で、いずれも教師たちが生徒の学力不足を「ヤル気のなさ」のせいにすることが納得できなかっただけなんです。

生意気ですが私は、ちょっと工夫すれば生徒は変わるのにといつも感じてました。もちろん生徒たちにも非はあります。ハナから授業はつまらないと決めつけて…。あくまで個人的感想ですが何か学校という場には相互不信のようなものがあると。

ところが塾では違っていたんですね。