教育研究所ARCS

【第10回】さすらい教師野獣編

塾長奮闘記

さすらい教師野獣編

例え生徒に「ヤル気」が見られなくても先生までが「ヤル気のないクズ」と決めつけてはいけません。ヤル気のない生徒にヤル気がないと批判しても何の解決にもならないでしょう? ますますヤル気を失くすという悪循環に陥って終わりです。とは言えあの埼玉の高校生たちはホントにヤル気がなかったけど(笑)。

彼らの不勉強はプライドの欠如から来ていたとはいえ、学校のせいにして自分たちの不出来を正当化する態度は許せません。私も辞書の引き方から品詞の見分け方までかなりしつこく教えました。あえて中1レベルに戻って復習させることもありました。授業中問題を解かせながら一人一人チェックして回ると、その子がどの段階でつまずいているか大体分かります。どこまでさかのぼって復習すべきか個別に指摘していくと、普段やる気を見せない生徒たちも意外と素直に頷きます。

彼らも決して心底からヤル気がないのではなく、「わかるようになりたい」とは思っているんです。ただ長いこと「わからない」状態が続いているので、自分が「わかるようになる」とは信じられなくなってるんですね。ついにはどうせわからないのだからやるだけ無駄と決めつけてしまう。「わかるはず」と考えて後でやっぱりわからなかったと傷つくよりマシだから。こうして生徒は最初から「ヤル気を出さない」ことで自分を守ってしまうんです。

こういう場合の処方せんはやはり分かっている段階までいったん戻って、どこでつまずいたか悟らせるのが一番。でもこれ、口で言うほど簡単じゃありません。だってどこでつまずいたか一人一人みんな違ってるんですから。

でも私は妥協するつもりはなかったです。辞書を引くこと。家で予習して来ること。この2つは絶対守るよう厳しく言い続けました。他の教師のように「就職組だから」と生徒たちの現状を容認したくなかった。就職するからこそ、せめて学生時代の最後ぐらい「勉強したなぁ」という実感を味あわせてやりたいと思ったんです。結果ですか? 男子は私の言うことを聞くようになりましたが、女子の一部はしぶとく(笑)やって来ません。マァ、女の子というのはいったんヘソを曲げると…。今考えれば男子連中は、しつこく必死に教える若い教師に「この先生ガンバってるみたいだから少し応えてやるか…」と同情してただけかも知れませんが。

男子といえばこの時期忘れられない「事件」がありました。一人の生徒(男子)が授業を5分短縮してくれと頼むんです。理由は、私の授業は4時間目なので、終わると昼食のパンを買うために地下の食堂へ行く。しかしいつも長蛇の列で時には売り切れて買えなくなる。(教室は3階なので時間がかかる)だから5分前に終わらせてというものでした。「分かった。その代わりしっかり予習して来いよ」と私は許可。で、5分前に終わらせると男子は全員でダーッと走って行く(笑)。ところがある日そんな調子の男子連中が廊下に飛び出し、何故か「ウォーッ」とか「ウギャーッ」とか大声で奇声を発しながら駆けて行きます。暑い季節で各教室の窓や戸は開け放しになってました。すかさず隣の教室から怒り狂った中年の教師が飛び出して来たんです。まっ赤になって怒ってました。で、廊下に立っている私を見つけると「あんただ、先生。いつもあんたの授業だよ! チャイム鳴るまで生徒を出さない規則だろ!」と赤鬼のような形相で私を指さしながら詰め寄ってきました。

「エエーッ、そんな規則聞いてないよぉ~」と私は思いましたが形勢は非常に不利です(笑)。とその時さっき駆け抜けて行った男子たち、∪ターンしてまっすぐ戻って来るではありませんか。彼らはダダーッと走って来てあっという間に赤鬼中年教師を取り囲むと「先生(私)に文句言うんじゃねえ!」「俺たちが頼んだんだ。先生は関係ねぇんだよ!」とつかみかかりました。「バカ、やめろ」あわてて私は割って入りました。「お前ら教室へ入れ」私はそう言いながらボウ然と立っている中年教師に非礼をわびたのでした。

うーん。どうしようもない連中ですね。まるで野獣です。でも正直に告白すると、ちょっぴりうれしかったのも事実だったりします。