【第3回】授業料 高いか安いかは毎月の額だけでは判断できない
まず1時間あたりの単価と補習の回数を調べよう
塾の授業料は千差万別である。小学生の場合、安いところで月額3千円~5千円、中学受験専門塾になると2、3万~10万円も取るところもある。
ここでは高校受験を目指す中学生に話をしぼろう。中学生の場合でもやはり塾によって相当開きがある。安いところで月額7、8千円~1万5千円くらい。高いところで2万~5万円くらいであろう。ただここで注意したいのは月々の授業料だけ見て、高い安いを判定できないということである。
わかりやすいのは月あたりの総授業時間数で見るやり方である。たとえば週2日英数国3教科で1教科50分なら、50分×3(教科)×2(週2日)×4(週)=1200分。つまり月あたり授業時間は1200分(20時間)である。授業料がもし2万5千円なら、1時間1250円払っている計算になる。
これにもし理社を加えて5教科(理社は週1日50分×2とする)で授業料が3万円だとすると、1時間あたりの単位は1127円となり、少し安くなる。
つまりこの塾は3教科なら時間1250円、5教科なら1127円の授業料を取っていることになる。ところが同じ2万5千円の授業料でも授業時間が1教科10分少ない40分だったりすると、たちまち1時間あたり1562円にはね上がってしまう。先の塾よりかなり割高である。逆に中学受験専門塾のように週4日以上月25~30時間もやるところだと、4、5万円でも高いとは言えない。
さらに塾によっては無料の補習授業などを行うところと、やらないかやるとしても有料の場合があるのでそれを考慮する必要がある。一見毎月の授業料が高くても、頻繁に補習や時間外の個別指導をやる塾は、授業料はかえって割安なのだ。
良心的な塾は補習をシステムの一部に組み入れていることが多い。というのも新入塾生などが入ったとき塾の進度に合わせるため個別に補講しなくてはならないからだ。細かくクラス分けしている場合も、クラス移動する際、生徒によっては進度を調整するための個別補習の必要がある。
良心的な塾ほどこのような時間外の補習を行っている。たとえ無料であっても、補習分の人件費は塾が負担しなければならない。当然赤字である。しかしこのような塾はもともと赤字覚悟で補習をやっている。
だから頻繁に無料補習をやるようなら、授業料は額面よりもかえって割安になるはずだ。逆に言えば、一見安いようだが正規の授業時間しかめんどうを見ないというところは、かえって割高なのである。
本当に生徒のことを考えたら授業料はあまり安くできない
このように塾の授業料は安ければよいわけではない。一番大きな理由は安い授業料では優秀な講師を確保できないという点にある。
塾はどこも優秀な講師の確保に「やっき」になっている。魅力ある講師の少ない塾はすぐに生徒に去られ、衰退していくのである。
評判のよい塾は講師のレベルアップのための研修を行うので、その経費もかかる。いわゆる「めんどう見」をよくするために授業時間外にも個別指導や質問などの時間外労働を増やすからだ。このようなサービスを徹底するとどうなるだろう。
仮に生徒数300人の中規模塾で授業料が1人平均3万円であれば、月々の授業料収入は900万となる。授業料3万はやや高い印象があるが、今言ったような万全の体制であれば、講師30人(アルバイト20人、専任10人として)を投入する必要がある。時間外労働・休日出勤を含めフル稼働すると、人件費は500万前後に達する計算になる。これに家賃、光熱費、電話、コピー、印刷代など固定費を加えれば収支はトントンか下手すると赤字になる。「まさか赤字なんて…」と思うかも知れないが、まともにやると月次決算はけっこう赤字になるのである。
従って講師に払う給与額が低いところでは、授業料が安くても質の高いサービスは受けられないと覚悟すべきである。1対1や1対2、3の個別指導塾などが時給1000円台や1000円以下で講師を募集しているのをよく見かけるが、いくら1対1といっても優秀な講師は集まるはずはなく、これでは生徒の力を伸ばすことは期待できない。
なぜなら、教育で1番難しいのは勉強を教えることではなく、子どもの力を引き出しやる気を起こさせることだからだ。
「動機づけ」は相手が子どもに限らず、人間関係においてもっとも高度な技である。動機づけられる方は、動機づけする相手の知識、教養から情熱、誠意、愛情までも感じられなければ動かない。「子どもが好きだから」というようなレベルでは到底通用しない。
「人材」に投資している塾ならば授業料月額3万円前後なら今まで述べてきた理由から決して高いとは言えない。
もうけ主義の塾はここで見分けよう
授業料が高い塾がもうけているとは限らず、授業料の安いところがもうけていないとは必ずしも言えない。
しかし私の眼から見ても不当に高いと思われる塾はある。1クラス30人以上もつめこむ大手チェーン塾と諸費用1年分を前払いさせる塾である。
1クラス30人の塾は同じ授業料であっても、単純計算で1クラス15~16人の塾の2倍の利益を上げている。親・生徒の側からすればこれは同じ金額で2分の1かそれ以下のサービスしか受けられないことになる。
塾講師を経験した者なら誰でも知っていることだが、真剣に生徒の「めんどう」を見ようと思ったらクラス人数は17~18人が限度である。
通常、講師は2~3クラスを担当している。たとえ1クラス15人でも、30~45人の生徒を受けもっていることになる。これら生徒一人ひとりの性格、不得意分野、家での学習状況を把握し、さらに毎回の宿題や課題のチェックを行わなければならない。しかもこれらは「基礎的データ」に過ぎない。
学力を伸ばすためには各々の生徒の対処法や学習計画を作成する必要がある。これに加えて、まじめな塾なら親へ報告するため各講師にこれらの基礎データや学習プログラムを口頭か文書で提出させるだろう。1人の講師が授業外にこれだけの職務を全うしようとすれば、1クラス30人などもてるはずがない。つまり30人以上つめこんでいる塾は、講師の職務が「授業だけ」なのである。
もう1つ、授業料以外の諸費用1年分を全納させる塾も気をつけるべきだ。確かにテキスト代やテスト費、光熱費、消費税は塾にとって徴収すべきものである。しかしそれは実費でなければならないと私は思う。
チェーン展開している大規模塾(個別指導塾も含む)は自前でテキストやテストを印刷しているため、単価は相当割安である。従ってむしろ授業料外諸費はあまり取る必要がないはずである。年間せいぜい5万円以内で済むはずだ。それなのに5万~10万以上徴収するのは不当であり、特に年間分を全納させて退会するとき返還に応じないのは、商道徳にも背く行為である。
学習塾業界で売り上げベストテンは公文式を除けば、これらチェーン展開する個別指導塾と1クラス30人以上の大手塾であるという事実は、いかにこれらの塾の利益率(もうけ)が高いかを示している。
まとめ
- 授業料を月額の数字で高い安いと判断することはできない。
- 金額を授業時間数で割って単価を出せばとりあえずの比較はできる。
- 無料補習を多くやる塾は実際より割安になっている。
- 1クラス30人以上つめこむ塾は15人の塾に比べて不当に高い。
- テキスト代、設備費などの諸費年間分を満額入塾前に納めさせたり、やめる時返還しない塾はもうけ主義である。