教育研究所ARCS

【第2回】塾の宣伝材料「合格実績」のカラクリを見抜く方法

塾選びで失敗しない方法

塾選び

カラクリ① 合格者数は実数ではない

塾を選ぶとき、多くの人は「合格実績」を有力な判断材料にすると思う。それは無理もないことで、いくら「めんどう見」だとか「少人数」だとかの宣伝文句を並べられても本当のところがわからない以上、また塾へ通わせる動機が我が子の「合格」にある以上、とりあえず「合格実績」を見て安心するのは自然だからである。

実際、進学塾を標榜するところはどこも合格者の数を競っている。合格者の数が多ければ多いほど、塾の格も上だと当の塾自体が考えているのである。

しかし合格実績は本当に塾えらびの基準になり、信用に値する判断材料なのだろうか。

私の答えは「ノー」である。その理由として私は以下の3つをあげたい。とりあえず第2回では①・②について話し、③については第3回で改めて述べる。

  • ①合格者数を水増ししたり、1人で複数校合格した場合など実数を反映していない
  • ②合格者数が多くても合格率は低いケースも多い
  • ③合格実績と塾が行う教育サービスのレベルは直接的には無関係である

まず①について。信じられないことに、合格者数を水増しする塾は確実に存在している。かつて千葉県を中心に生徒数最大規模を誇った大手塾は、堂々と合格者数を水増しして発表していた。合格者の氏名を載せる場合と人数のみ載せる場合に分け、合格者の人数のみを載せる場合、たとえば実際は20人しか受かっていなくても30人などと書くのである。

氏名を載せる場合でも講習だけ、テストだけ受けただけの生徒を塾生として合格実績に加えることまでしていたのだ。塾生に友人を連れてこさせ、頻繁に行われる志望校判定テストなどを受けさせる。そして後日その子が合格すると勝手に名前を載せるという手口だ。ここまでくるとサギまがいである。この大手塾の行状は業界では知らぬ者のない、有名な実話である。

悪評がたたってこの塾は急速に衰退したが、他にも同じような塾はある。

たとえばどこの塾もそうだが、1人で複数校に合格した場合、その都度合格人数にカウントするため合格者数は実際の在籍生徒数より増えてしまう。これは厳密に言って水増しではないが、紛らわしいことに違いない。これだと人数の多い塾ほど「見かけ上の合格者数」は膨大になる。たとえば生徒数100人の塾で1人平均3校合格した場合、合格実績は合計300人だが5千人の塾だとたちまち1万5千となってしまう。

またこれとは少し違うが、より悪質な手口としていくつかの高校に合格した人数を合併して発表するものがある。都内に本部を置く有名大附属に強いことを誇る塾では、早慶系何百人という具合で発表する。これだと実数は一体何人なのか全く謎である。

このように塾の発表する合格者数は「水増し」や「見かけ上の人数」を割り引いて考えなくてはならず、正確な実数を反映したものではない。

カラクリ② 大手塾は不合格者が多いので教室ごとの合格率を調べよう

合格実績があてにならない第二の理由は、合格者数と合格率の違いである。ここで強調したいのは、塾がチラシなどで宣伝する「実績」とはあくまで全教室合わせた「見かけ上の合格者数」であり、教室ごとのあるいは受験校ごとの合格率ではないということだ。

ところが生徒や親にとって必要なのは、教室ごとの合格者の実数や合格率の方である。なぜならそれらがその塾の本当の実力を示しているからである。

従って子どもを合格させたければ、合格率を調べなければならない。それも教室ごとのだ。同じ塾でも教室によってぜんぜん違うことが少なくない。

特に気をつけなければならないのは大手塾のチラシである。入試シーズンともなると、宣伝チラシに合格者名がズラリと並んでいる。多くの人は「こんなに大勢受かっているのか」という感想をもつだろう。すると、たくさん受かっている→皆受かっている→自分も受かる、という錯覚をもってしまう。

合格率を重視しよう

なぜこれが錯覚かというと、第一にこれは全教室の合算人数であり、自分の通う教室の実状ではないということ。第二に当たり前だが大手塾は在籍している生徒数がケタ外れに多いが故に不合格者もケタ外れなのだが、チラシ等からはこの事実は隠ぺいされているからだ。

首都圏に分教室を多数展開する大手チェーン塾などは生徒数が数千人から数万人という巨大さである。当然これだけの人数がいれば合格者も多いが、「不合格者」数もケタ外れなのだ。

たとえばある大手塾は年にもよるが、合格率は50%を切っている。受験者の半数かそれ以上が落ちている計算になる。

県立高校の倍率を考えると「異常な受からなさ」である。まして私立校となると不合格率はさらに高くなる。私は仕事柄直接これらの「真実」を聞く機会が多い。

だからこのような大手塾よりむしろ教室数が1つか2つの小規模塾や10教室以下の中規模塾の方が合格率は断然高いと言える。実際こういう塾の中には、中3生が100~150人しかいないのに、地元の県立トップ校に30人以上をコンスタントに合格させているところもある。同じ地区で大手塾は約5千人中120~130人である。

どちらが合格させる塾であるか一目瞭然であろう。合格率で比べるなら大手塾は相当に不利である。

マニュアル化どうして大手塾の方が合格率が悪いのか。理由はいろいろだが、授業法やテキスト、指導方針などがあまりにマニュアル化され、どの教室でも同じテキスト、同じ教え方をしてなるべく講師の独自性を抑える。だから教室個々の特徴や生徒の個性に細かく対応できない。というより対応しない仕組みになっている。

というのは、あまりに細かく対応すると教室間で差がつき、さらに膨大な生徒のタイプ別に指導方針を考え実践するとなるとかなりの経費が発生し、経営効率が悪化するのである。

そもそも大手塾というのは経営効率を最優先し、すべてを徹底的にマニュアル化したからこそ大手塾になれたのである。その弊害として図体が大きくなり、何でも本部で一括管理する官僚化が進み、熱血講師や個別対応の存在を許さない構造になってしまったのだ。

それに反して小中規模塾は、地域密着型で近隣の高校入試の出題傾向や学校の特徴などをよく研究し、「こだわり」をもってじっくりていねいに生徒を指導している。こういう塾では講師が休日返上で補習をしたり、時間外労働もいとわず熱心に生徒を見ることが多い。結果経営効率はよくないが、合格率は高くなる。

無論、小中規模塾の全てが高い合格率をあげているわけではない。結局入試に強い塾かどうかはその教室ごとの合格率を見なくてはわからないのだ。

従って我が子を合格率の高い塾に行かせたいのであれば、親が実際に塾へ足を運び合格率を調べるべきである。特に大手の場合「何人受かったか」ではなく「何人受けた結果の合格者か」をしつこく問いただしてほしい。もし教室責任者が塾全体の受験者を把握していないとしても、最低自分の教室についてだけでも受験者と合格者を言えるはずである。教室責任者が明確に答えられないなら、その塾は敬遠した方がよい。

さらにその塾が小中規模塾なら絶対に合格率を聞き出さなければならない。受験者の数がそれ程多くないので、教室長レベルならほぼ全員の合格・不合格を把握しているはずだ。もし答えられなければ「水増し」をしているか、「真実」を公表できないほど結果がひどいと見て間違いない。

いずれにせよチラシの合格者数だけ見て判断を下すのは大いに危険であると言わざるを得ない。

まとめ

  • 塾の合格実績は「水増し」したり、見かけ上の人数(ダブり)で実際より多く見せることがある。
  • 在籍者が多い大手塾は不合格者の数も多い。
  • 塾の実力は合格率を調べなければ分からない。
  • 塾全体の合格者数を見るより我が子が通う「教室」の合格率を調べた方がよい。
  • チラシの「合格者数」を見て安心するのは危険。