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講話 KSチャンネル 第106回

子供の自立とヤル気を促す最強の法

管野淳一(教育研究所ARCS 代表理事)

「親が子どもに勉強しろと言って、子どもが喜んで勉強するようになったという例は、一つも見たことがないんですよ」── KSチャンネル 第106回より

前回まで三回にわたって、AIの専門家である中村さんをお招きして、AIがもたらす未来について、そして教育についてお話ししてきました。その中で、私も少し驚いたことがあったんです。これからは仕事をAIが全部やってしまう、と中村さんはおっしゃっていた。実際、そういう傾向にあるらしくて、先日もNHKで、事務職の方が自分の居場所がだんだんなくなっていく、AIに取って代わられていくと感じて、退職する人が増えている、と放送されていました。

AIの時代によって、社会のシステムそのものが変わっていくんだな、と思いましたね。

そこで今日は、教育の話をしたいと思います。子どもの自立とヤル気を促す、最強の法

自立心というのは、非常に大切です。自立心の反対は、依存心。親御さんがあまりにも子どもの面倒を見すぎると、子どもは依存しやすくなる ── これは、お分かりでしょう。

第一部 ── 親がやってはいけない、四つのこと

まず、親がやってはいけないタブーを四つ、挙げたいと思います。

§1 ── 「勉強しなさい」と、うるさく言う

子どもに勉強を強要するのはやめましょう、ということを、私はいつもセミナーや講演会で親御さんにお話ししています。とはいえ、子どもが勉強しないとイライラして、つい強要してしまう親御さんが多いんですね。

これは、絶対にやってはいけないと思います。

40年以上、私は教育の現場にいましたけれども、親が子どもに勉強しろと言って、子どもが喜んで勉強するようになったという例は、一つも見たことがないんですよ。

たしかに、あまりうるさく言えば、お子さんがいやいや部屋にこもって、勉強する姿勢だけを見せることはあるかもしれません。でも、形だけになってしまう。義務感だけで勉強することになって、まったく身につかない。そして何より、自主的に勉強するという癖、習慣がつかないんですね。

§2 ── 点数や結果ばかりを気にする

テストの点数や通知表の数字に、親が一喜一憂する。これも、とても子どもに悪い影響を与えるなと思っています。

90点を取ると「いい点数だね」と喜び、50点だと叱る。それだと子どもは、目先の点数を追う勉強の仕方しかしなくなる。テストに出そうなものだけを勉強する、ということになってしまうわけです。

アメリカの実験でも、こういうものがあります1。子どもを二つのグループに分けて、一方には点数だけを褒め、もう一方にはプロセス、つまり努力を褒める。その後の成績の伸びはどうなるか。

点数だけを褒めた子どもは、だんだん下がっていくんですね。

どうしてか。点数を褒められたということは、「自分の能力が高いことを褒められた」と解釈するわけです。そうすると、その高さをそのまま維持しなければいけない、いつもいい点数を取らなければいけない、と思ってしまう。だから次から、あまり勉強しなくなる。親の期待を、自分から下げにいくような働きが起きてしまうんですよ。

§3 ── 不得意教科や欠点を、正そうとする

これも、やってはいけないことです。なぜかというと、冒頭にお話ししたように、今の時代は評価基準が変わってきているからです。

これまでの教育だと、英・数・国・理・社の五教科がまんべんなくできることがいいことだ、と思っている親御さんが多い。ところが、何でもかんでもある程度平均的にできる、という人は、これからの時代にはあまり通用しなくなってしまうんですね。

何か突出した、誰にも負けない能力。「これだけは負けない」というものを持っている人のほうが、企業にしても世間にしても、求められる人材ということになるわけです。

§4 ── 「良い親」を演じようとする

これはどういうことか。昔、少年院 ── 罪を犯した子どもたちを更生させる施設ですが ── そこに医師として勤めた方の話です。

その施設では、子どもたちが悪いことをすると、罰則を与えたり、感想文を書かせたりする。そうすると、子どもたちはみんな、立派な文章を書くらしいんですね。自分の迷惑行為を深く反省しております、これからは改めていきたいと思います ── そういう模範的な文章を、みんなが書く。

それはどういうことか。親が「こうすべき」「ああすべき」という世間の常識を、教え込みすぎているということなんです。その方の書いた本のタイトルが、『良い親を演じると子供が不良になる』というんですよ。

私もたくさんの親御さんと接していて、どうも建前と本音を分けてしまっている方が多いと感じます。子どもの前で立派なことを言おうとして、それが世間の常識をなぞっているだけになっている。

子どもは、親の本音と建前が違うということに、思春期になるとすぐ気づきます。そして、その偽善的な態度のほうを学んでしまう。そうすると、親の言うことに信憑性を感じなくなるんですね。

第二部 ── 自立とヤル気を促す、四つの態度

では、自立心とヤル気を促す親の態度とは何か。それは、今の四つのタブーと、ちょうど逆のことになります。

図1:親がやってはいけない4つと、ヤル気を促す4つの対応
図1:やってはいけない四つは、裏返せば、そのままやるべき四つになる

§5 ── 子どもの潜在能力を信じて、手放す

信じて手放す。これを、私はいつもスローガンのように言っています。

脳科学者も言うように、人間は能力の3%くらいしか発揮していない、といわれます2。残りの97%はどこへ行ったのか、という話になるわけですけれども ── それは、動機づけなんですね。

子どもが本当に「勉強をやりたい」「やらなければ」と思ったときに、はじめて発動するものなんです。外からの動機づけでは、無理なんですよ。 眠っている力のスイッチは、外からでは入らない。

図2:外からの動機づけではスイッチは入らない。内からの動機づけが必要
図2:スイッチは、内側からしか入らない

ですから親はどうすればいいか。子どもの能力はまだたくさんあるのだと、心から信じること。そして、あとはあれこれ言わないことです。

§6 ── 結果よりも、プロセスの大切さを教える

点数や結果ばかりを気にする、その反対です。

プロセスの大切さとは何か。テストの一つの問題でも、答えに至るプロセスはいくつもあるんですよ。正解は、一つではない。つまり、多様な選択肢や可能性を考慮するということなんですね。

子どもが答えに到達するまでに、どんな思考経路をたどったか。そこを親が少し注意して見てあげて、聞いてあげる。すると、「答えは間違ったかもしれないけれど、プロセスは非常に面白い」ということがある。

大学受験でも、国立大学の数学などは、先生がプロセスをちゃんと見てくれるんです。そこを評価して点数がつく。答えは一つではないということを、子どもに教えてほしいんですね。

§7 ── 興味関心のあることを、深掘りさせる

得意教科でも、好きな教科でも、趣味でもいい。何かそういうものがあるお子さんに対しては、親はそれをもっと深く追求するように促してほしいんです。

一緒になって「面白いね」と言う。あるいは、「ちょっとそれ、教えてくれない?」と、子どもに教えを乞う。そういう形を取ると、子どもはヤル気を出しますよね。

さきほど、不得意や欠点を正そうとしない、と言いましたけれども、得意を伸ばすことのほうが大事なんです。平均にお金を出す企業はないけれど、突出した能力にお金を出すところは、いっぱいあるわけですから。

§8 ── 知的好奇心を伸ばす、日常の会話

そして最後、四つ目。これが一番大事だと、私は思っているんですね。

子どもの知的好奇心を伸ばす会話を、日常から心がけるということです。私はこれを、三角話法と呼んでいます3

お子さんに直接、何か説教じみたことを言うのではありません。

子どもは、親が自分に向かってメッセージを発した場合には、耳を塞いでしまうんですね、実は。でも、親が他の人と話していることは、耳だんぼで聞いているんですよ。

ですから、「こんなことが面白いよね」という話を、子どもの前で、他の誰かに向かって話す。お父さんとお母さんでもいいし、第三者でもいい。そこで、たとえばブラックホールの話とかですね、面白い話をしてほしいんです。

図3:三角話法 — 子どもは、横で交わされる話を聞いている
図3:三角話法 ── 子どもに言わない。子どもに聞こえるように言う

知的好奇心さえ、特に小学生時代に伸ばしておけば、あとは何もいらないというくらいに、成績は伸びていきます。

次回は、中学受験について

次回は、今流行りの中学受験について。中学受験の指導のプロの先生をお招きして、中学受験というものが果たして本当に功罪どちらなのか、お得なのか、利益があるのか、ないのか ── そういうことについてお話をしたいと思います。よろしくお願いいたします。

ご家庭で試してみてください

この講話を「聞いて終わり」にしないために、今日から試せる小さな三つを置いておきます。

1. 一週間、「勉強しなさい」を言わないでみる。

言わなかった日に、家の中の空気がどう変わるか。お子さんの様子がどう変わるか。それだけを観察してみてください。何も変わらなくても構いません。まずは、言わずにいられるかどうかです。

2. 点数ではなく、「どうやって解いたの?」と聞く。

答案が返ってきたとき、数字ではなく道筋を聞いてみる。間違っていた問題こそ、聞き甲斐があります。面白い考え方をしていたら、そこを面白がってください。

3. 今日、子どもに聞こえるところで、誰かに面白い話をする。

ブラックホールでも、歴史でも、仕事で知ったことでも構いません。子どもに向けないこと。教えようとしないこと。自分が面白がっていることが、いちばん大事です。

  1. 能力を褒めるか、努力を褒めるか ── 講話中の「アメリカの実験」は、心理学者キャロル・ドゥエックらの一連の研究を指すと思われる。Mueller & Dweck (1998) は、課題に成功した子どもを「頭がいいね(能力)」と褒めた群と「よく頑張ったね(努力)」と褒めた群に分け、その後の行動を比較した。能力を褒められた子どもは、失敗を避けて easy な課題を選びやすくなり、困難な課題の後に成績や意欲が下がる傾向が示された。のちに「しなやかマインドセット(growth mindset)」として広く知られる考え方の出発点にあたる研究である。ただし、褒め方だけであらゆる学習成果が決まるわけではなく、近年は効果の大きさをめぐる検証も続いている。
  2. 「能力の3%しか使っていない」 ── 「人間は脳(あるいは能力)のごく一部しか使っていない」という言い方は古くから広く用いられているが、脳科学の定説ではない。脳画像研究では、脳のほぼ全領域が何らかの機能を担っていることが示されている。ここでの数字は、「子どもの可能性を、大人が今見えている範囲で決めつけてはいけない」という趣旨を伝えるための比喩として受けとめたい。なお、外から与えられた動機づけ(外発的動機づけ)よりも、本人の内側から生まれる動機づけ(内発的動機づけ)のほうが、学習の持続や深まりにつながりやすいことは、教育心理学で繰り返し確認されている。
  3. 三角話法 ── 管野淳一による呼び名。親が子どもに直接語りかけるのではなく、親と第三者(配偶者・知人など)の会話という「三角形」をつくり、その会話を子どもに聞かせることで、知的好奇心を引き出そうとする関わり方。ARCSの保護者向け講座「親学」でも紹介されている。